DRAGON BALL

作者鳥山明
掲載誌週刊少年ジャンプ
掲載期間 1984年51号~1995年25号
話数全519話
巻数全42巻
設定★★★★★
キャラ ★★★★★
ネーム★★★★★
画力★★★★★

『オラ べつにきたないケツなんかさわりたくねえぞ』

作品解説

七つ集めると何でも願いがかなうというドラゴンボールを探す旅をしているブルマは、山奥で猿のように尻尾の生えた少年・孫悟空に出会う。おじいいさんの形見としてドラゴンボールの一つを持っていた悟空は、無茶苦茶な強さも持っており、いろいろと役に立つと考えたブルマは一緒に旅に出ることを提案する。そしてドラゴンボールを探し出す旅が始まる。
日本国民なら知らない人はいないであろう少年漫画を代表する作品。連載終了時には、集英社や東映など大会社のトップ会談が行われたという噂もあるくらいで、これはもう漫画というよりも「DB産業」という日本を支える重要な資源といっても良いだろう。唐突な感じの最終回も、事前に最終回を匂わしてしまうと株価など経済への影響が出てしまうための苦肉の策だったという見方もあるくらいだ。
そんな大ヒット作は、作者のメンドくさがりという資質が作品に多大な影響を与えている。ストーリーにおいては、基本的には強い敵と戦っていくというだけで、練られた伏線や大ドンデン返し、号泣するような人間ドラマは皆無だ(人気のなかった初期の頃の方が練られたストーリーがあったくらい)。その何もない単純さこそが、気軽に読めて万人に受ける要素になっているということもあるのだが、ただ単純なだけではあんなワクワク感は生まれなかっただろう。「3度も同じ絵を描くのが面倒くさい」という理由でネームも描かずにいきなり下書きから始める作者の、いってみれば、後先考えないその場しのぎの手法が結果的に読者のワクワク感を高めたのだ。実際、作者自身も描いた後で「この後どうしよう?」と思うことばかりだった(毎週が「あやうし!ライオン仮面」の巻だったのだ!)という、そのライブ感こそが人気を支えた要因であることは間違いない。また、作品内でよく使われる、いきなり「●年後―」となる展開も、「修行場面などは考えるのが面倒だし描いてても面白くない」という理由で(おそらく)描かないのだろうが、やはりそれは読者も同じで修行よりもバトルが見たいのだから問題ない。
更に、絵についてもこの資質は影響を与えていて、有名なのは面倒だからスクリーントーンを使わないという話。他にも面倒だからという理由で、スーパサイヤ人の髪は金色にした(黒ベタをしなくて済む)だとか、フリーザの最終形態をスッキリさせたなどいろいろある。背景も荒野などがほとんどだし、効果線もスピード線などごく簡単な数種類の効果線しか使っておらず、実際にかめはめ波なんてトーンもなくただ太い線で描かれているだけなのだ。しかし、そもそも日本における絵の文化は、緻密にリアルに描くことよりも、浮世絵に代表されるように簡単な線で表す表象主義的な方向で発展してきており、それを引き継いでいるのが日本の漫画やアニメの2次元化された絵なのだ。そしてこの、絵における線の省略という点においては、この作者の右に出るものはいない。絵の上手な漫画家は他にもたくさんいて、実際にリアルな絵ということであれば、もっと上手な漫画家はたくさんいる。しかし、面倒だからと極力線を少なくした上でも、よりリアルに、より効果的に見せられるという点に置いてはこの作者は天才といえる。バトルものの宿命であるインフレする「強さ」を、ストーリー展開やセリフに頼らずとも、そして、トーンを使って過剰な演出をしなくとも、シンプルな線と構図だけで充分な説得力をもって表現してしまうのだ。これこそがこの作品の強みであり、長い間飽きられることなく人気があった理由の1つである。必要最小限の線で多くの情報を読者に与えることができるという、超合理的なまさに究極の完成された絵であるといっても過言ではないのだ。シンプルな絵であるということは、見やすいということと同時に、真似がしやすいということでもあり、だからこそアニメ化などで他の人が描いた場合でもあまり違和感を感じることがない。なので様々なジャンルへの進出が容易になり、そしてついには「DB産業」を生み出したのだ。そうしたことを考えると、面倒なことはなるべくしないで面白い所だけを楽しみたいという、全人類の究極の本音を体現しているのがこの作品なのかもしれない。

関連作品Dr.スランプ連想作品鉄拳チンミ
前作ヘタッピマンガ研究所次作COWA!
完全版 新装版
全34巻全42巻